中学校 道徳教科書の東京書籍 新しい道徳(中学校)の教材、「いじめのない世界へ(1)いじめに当たるのはどれだろう」の内容です。

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いじめのない世界へ(1)いじめに当たるのはどれだろう (東京書籍 中学1年p.22「認め合う心」)

内容項目 主として集団や社会との関わりに関すること
主として人との関わりに関すること
よりよい学校生活、集団生活の充実
相互理解、寛容
東京書籍 中道徳1年-1
1.本教材について ▼道徳の教科化のきっかけは大津市で起こった中学生のいじめ自殺事件だった。そのため、中学校の教 科書はいじめについて3年間を通して取り上げている。東京書籍は「いじめのない世界へ」という表題 で1年~3年で、各3つの教材を用意している。
▼本教材は、教科書の「1年間で学ぶこと」(p.8)によると「認め合う心」を学ぶことになっている。 指導要領の内容項目としては「相互理解、寛容」に当たる。
▼しかし、本指導案では問題を生徒の「心」だけに焦点化せずに、学校生活や集団生活の在り方に注目 して「いじめのない空間をどう作っていくか」ということを考えていこうとする内容を柱としている。 指導要領の内容項目としては「より良い学校生活、集団生活の充実」に当たる。「より良い学校生活」を 教師から教えてもらうのではなく、生徒の参加によって教師も共に考えていくという経験は、シティズ ンシップ教育の一環である。
▼教科書の絵は, 小学校の給食が終わった後、昼休みが始まるまでの時間のようである。先生はいない。 クラスの子どものほとんどは教室にいるようだ。絵を一見しただけで相当ないじめ空間である。 (参考2を参照)
▼いじめ防止対策推進法(2013年)では、いじめは次のように定義されている。「児童等に対して、 当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人間関係にある他の児童等が行う心理 的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じておこなわれるものを含む)であって、当該 行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。」
▼また、かつて1985年に文部科学省がいじめ調査をおこなった際のいじめの定義は次の通りである。
「自分より弱い者に対して一方的に、身体的・心理的攻撃を継続的に加え、相手が深刻な苦痛を感じて いるものであって、学校としてその事実を確認しているもの(起こった場所は学校の内外を問わない。)」
文科省の定義も変化しているが、最初の定義と、いじめ防止対策推進法との違いに注目して欲しい。
参照 文科省いじめ定義の変遷
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/06/26/1400030_003.pdf
▼文部科学省の調査によれば、いじめの態様として最も多いのは、「冷やかしやからかい、悪口や脅し文 句、嫌なことを言われる」である。
 いじめの「ひやかしやからかい」以外の「態様」については次の URLを参照。
 令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について
https://www.mext.go.jp/content/20231004-mxt_jidou01-100002753_1.pdf
▼また、国立教育政策研究所の調査によれば、いじめにはいわゆるピークと呼ばれる時期はないこと、 「冷やかしやからかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる」といういじめは、どの子にも起こっていること、また、加害と被害は入れ替わって起こっていることがわかっている。
「いじめ追跡調査2013-2015」 国立教育政策研究所
htps://www.nier.go.jp/shido/centerhp/2806sien/tsuiseki2013-2015_3.pdf
最新の追跡調査は、「国立教育政策研究所いじめ追跡調査 2016-2018」
https://www.nier.go.jp/shido/centerhp/2806sien/tsuiseki2016-2018.pdf
▼森田洋司らの研究(参考文献参照)によればいじめが起こる場所は教室が最も多いという。つまり、教科書の絵はいじめのホットスポットなのである。
参照:ストップ!いじめナビ
http://stopijime.jp/data/data006.html
▼国立教育政策研究所の「いじめの未然防止Ⅰ」生徒指導リーフleaf.7
(http://www.nier.go.jp/shido/leaf/leaf08.pdf)によればいじめの加害者にはストレスがあり、ストレスの要因となるストレッサーがあるという。
上記リーフの定義「ストレスとストレッサー(ストレスをもたらすもの)日本語では、ストレスの症状と 原因とを区別せずに、「ストレス」 の一語で表現することが少なくありません。しかし、正しくは、スト レスというのはストレス症状(イライラ感、無気力感、身体の不調等)を指す用語で、その原因となる ものはストレッサーと表現します。」
この絵に関連してどんなことがストレッサーになっているか、話し合ってみたい。
2.本教材を扱う際に、特に注意すべきだと考えたこと ▼できるだけ、身のまわりの具体的な事例に即して考えたい。
参考事項 参考1 学校で、生徒のストレスの要因となること
 国立教育政策研究所(上記「いじめの未然防止Ⅰ」)は、いじめ加害に向かわせる要因として「友人ストレッサー」「競争的価値観」「不機嫌怒りストレス」の三つをあげている。生徒が不機嫌となる要因としては、体罰、理不尽な叱責、理不尽なルールなども挙げられる。例えば休時間にはほかの教室に行ってはいけない、学校に関係のないものを持ってきてはいけないなども生徒にとってはストレスを解消する手段を奪われるという意味で理不尽だと感じているかもしれない。生徒の話し合いでこうしたことが出された場合にはその解消方法なども話し合ったらどうだろうか。体罰や理不尽な叱責など教師の態度に問題があった場合には、教師を含めて話し合う必要があると思う。  いわゆる「ブラック校則」についても同様。生徒に対して頭ごなしに怒鳴るなどといったことも常識 的に考えてストレスの原因となる。

参考2 教科書p.22~23の絵「いじめにあたるのはどれだろう」について
いじめ防止法の定義にもとづきながら「どれがいじめにあたるのか」考えてみたい。
子どもをグループにわける
① 教室内の子ども1人と、廊下からその子に紙くずをぶつけている子ども、その様子を囃し立てたり笑っている子どもが廊下に3人、教室に3人。またその様子をちらっと見ながら通り過ぎる子どもの計9人
② 内容はわからないが男の子1人とその子に話しかけている女の子1人 計2人
③ 教室の入口付近の椅子に座っている子とその子に話しかけている子 計3人
④ ③の子が座っている机の陰から近くの女の子に何かを投げつけて笑う男の子 計2人
⑤ 教室の入り口付近で女の子からノートを取り上げて外に出ようとしている男の子一人、それを焦って追いかけようとしている女の子1人
⑥ 一人の女の子と、その子の持ち物らしいものを勝手に投げ合って遊んでいる子、計4人
⑦ 机で居眠りしている子とその机に何か書いている子2人 計3人
⑧ レスリングか、柔道の技をかけようとしている男の子と相手の子、その二人になにか 言ったり、 はやしている2人 計4人 
⑨ ノートにいたずらをされたらしい女の子といたずらをしたらしい女の子計2人
⑩ ふざけ合っているように見える男の子2人
⑪ 給食の後片づけを、他人の分までやらされているらしい男の子1人
⑫ 机を持って動かそうとしている男の子と、その子に声をかけている男の子2人計3人
⑬ 食器の片づけをしている女の子、椅子を運んでいる女の子 計2人
⑭ 黒板にいたずら書きしている男の子1人女の子1人
⑮ 誰とも関わりを持っていない子、教壇に男の子1人女の子1人、時間割表の所に女の子1人

 いじめ防止法の定義によれば、②⑩⑬⑮以外はいじめと認知できる。1985年の文科省の定義ではこの教室で起こっていることでいじめと認知できることはない。

<参考文献>
『いじめとは何か』森田洋司 中公新書 2010年
『いじめを生む教室』荻上チキ PHP新書2018年
指導案と参考資料(補足資料など)はPDFをご覧ください。
休み時間の教室の様子(いじめ認識 補足資料)
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