中学校 道徳教科書の東京書籍 新しい道徳(中学校)の教材、「「人間の命とはー人間の命の尊さ・大切さを考える」」の内容です。

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「人間の命とはー人間の命の尊さ・大切さを考える」

内容項目 生命や自然、崇高なものとの関わり
かけがえのない生命
東京書籍 中道徳3年-1
1.本教材について
教材名 「人間の命とはー人間の命の尊さ・大切さを考える」(東京書籍 中学校 3 年 p.80 かけがえない生命)
(本指導案で「倫理」という言葉は「道徳」と同じ意味に使っている)、
▼本教材は、1975年にカレン・クインランさんをめぐって起こった出来事と裁判について、その経緯を 説明した短い文章と4つの問いかけから成り立っている。
▼カレン・クインラインさんの裁判の背景について
医療をめぐる倫理的問題は、昔から医療に携わる人の問題だと考えられてきた。医療従事者は、患者のた めに行動すべきであるというのが医療従事者の守るべき鉄則であった。ただ、主体はあくまで医療従事者 で、患者ではなかった。患者は、医療従事者の言うことを単に聞くべき存在だったのである。 1960年代、人権意識の高まりに伴って「患者の権利」が注目されるようになった。また、医療の発展も めざましく、60年代後半には初めて心臓移植が行われた(南ア共和国)。「先端医療」はそれまでだった ら失われた命を救う方法を次々と開発した。特に人工呼吸器は延命を可能にして、自然には「死」を迎え られなくなるという事態も生まれた。 こうした状況の中で提起されたのがカレン・クインラインさんの裁判だった。カレン・クインラインさん は意識が回復する見込みはないと診断されたが、人工呼吸器によって命をつなぎ続けたのである。
▼この裁判では、医療従事者が医療措置の停止という判断をすることは認めなかったが、患者本人が医療 を拒否する権利を、患者本人の意思が確認できない場合は家族が判断することを認めた。回復の見込みがない場合には、たとえ医療措置を停止することが死につながる可能性があっても本人または家族の権利 を認める、というそれまでにはない判断が下された。ただ、クインラインさんの場合は、人工呼吸器がは ずされても、約10年間、意識が回復しないまま自力呼吸によって生き続けた。
▼東京書籍の教科書には1年、2年に「いのちを考える」という教材があり、3年にも、本教材とともに に「あなたはすごい力で生まれてきた」「くちびるに歌をもて」「たとえ、ぼくに明日はなくても」とい う、誕生と死について考える教材がある。
▼カレン・クラインさんをめぐる事件や裁判は、治療の停止や医療の在り方をめぐって、新しい時代の幕開けを告げた判決と言われる。アメリカでは1975年に一部の州で「自然死法」が施行されるなど「安楽 死」や「尊厳死」などに注目が集まった。また、近年ではオランダなど一部の国では医師による自殺ほう 助を認める法律が制定された。なお、「尊厳死」と「安楽死」については参考3を参照。 ▼しかし、教材には説明がほとんどないので、中学生は何を考えたらよいのか、よくわからないのではな いだろうか。そこで、授業ではまず、教材にある生命科学の進歩と発展、生命倫理などについてのわずか 3行の説明を手掛かりに背景説明を行い、そのあといくつかの問いについて考えていきたい。
▼授業の最後に、日本での人工呼吸器をめぐる出来事を紹介し、それについて皆で考えたい。
2.本教材を扱う際に特に注意すべきこと

▼生命倫理に関する問題は、中学生がこれから人生の中で考えていかなければならない問題であり、この授業で学ぶことは出発点に過ぎない。そのことに特に留意したい。

参考

参考1 板書計画「生命科学の進歩と発展」(板書についての説明はケイ線で区切って表示)

人の死:医師が、心臓の停止、自発呼吸の停止、瞳孔の拡大の3点を確認することで、確定していた。
→人工呼吸器など生命維持装置の発達によって新しい事態が生まれた
例 脳死 脳が損傷し、機能が停止しても生命維持装置により心臓が動く状態を作り出すことが出来るようになった。
<説明>
脳死について
1997年臓器移植法(参考資料2009年改正)により、脳死の人からの臓器移植が可能になり、心臓を含めて、様々な臓器の移植が行われている。しかし、脳死は人の死かという問いには様々な意見があり、論争がある。そのため、日本では脳死を一律に人の死と決めることなく、本人及び家族が臓器提供を希望している場合に限って法的脳死判定が行われることになっている。
人の誕生:“子どもは授かりもの”“神のみぞ知る”だった。
→人工授精や体外受精、代理出産 など、医療の介入が可能になる。
クローン技術:親と全く同じ遺伝情報を持つ生命の誕生が可能になり、クローンペットの誕生も可能になった。
<説明>
胎児は、親の卵子と精子から受精卵ができてから約10カ月で体外に出るが、途中で医療の介入が技術的には可能となり、いつから「人間」と言えるのかという問いが出てきた。
生命倫理
急速に進歩する医療、生命科学が社会にもたらす様々な問題を広い視野で研究する分野。

参考2 「死」を前にした最終段階の医療と自己決定についてー各国の状況― 

オランダ
医師は患者の要請に基づいてその生命を終了させることができる。ただし、患者の要請が間違 いなく自発的なものであることや他のもう一人の医師の判断も得ていることなどの要件が必要。 ベルギー、ルクセンブルグもほぼ同様。
スイス
民間の自殺介助団体が活動。自殺の介助は、当事者に判断能力があり、死への希望が熟慮された もので持続性があるなどの条件が整えば合法であるとされ、外国人も対象。日本人も2016年までに介助 によって3人が自殺している。
日本
法律で規制するのはなく、厚生労働省が「終末期の医療」についてのガイドラインを出している。 「『人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン』の改訂について」で検索でき る。終末期をその人らしく“生ききる”ために、どんな医療や支援が必要かを、本人・家族・医師など事 前がに話し合う取り組み「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」についてのガイドライン。とも すると医療者がリードすることになりがちなプロセスに患者の価値観を反映させる取り組み。
参考文献
  • 「安楽死・尊厳死の現在」松田純 中公新書 2018年
  • 「応用倫理事典」加藤尚武他編 丸善 2018年
  • 「初めて出会う生命倫理」玉井真理子、大谷いずみ編 有斐閣 2011年
  • 「ケアの社会倫理学」川本隆史編 有斐閣 2005年

参考3 「安楽死」と「尊厳死」

尊厳死=自然死 苦痛を強いるだけの延命措置を拒否し、自然の状態に任せること。 安楽死:医者が、(患者の希望に基づき)、生命を短くする目的で何かを投与して死に至らしめること。

参考4 (授業配布資料)  「私の病状が重篤になったら,人工呼吸器を外してください」

NHK「クローズアップ現代」では2009年2月2日に「私の病状が重篤になったら,人工呼吸器を外してください」を放送した。以下の記事は番組をみてまとめたものである。

タイトルのように訴えているのはALS患者さんで千葉県勝浦市に暮らす照川貞喜さん(68歳)である。

照川さんは49歳でALSを発症し,その3年後に人工呼吸器を装着した.現在,発症後20年が経過しているが,その間,ALSの実態を伝えるため各地を訪れたり,パソコンを使って「泣いて暮らすのも一生 笑って暮らすのも一生(岩波書店)」という本も出版している。発症後,つねに前向きな闘病生活を送ってこられた方である。

ALSは、残存する機能を徐々に奪う病気である.輝川さんも発症してからの20年間,音声が出せなくなる、歩けなくなる、食べられなくなると、できなくなることが増えていった。照川さんは「残酷にも薬指も動かなくなった」と述べている。「今は頬(ほほ)の動きでパソコンを操作しているが、頬(ほほ)もいつ動かなくなるか、わからない。まぶたが動かなくなれば何も見えなくなる。闇の中で生きていくのは恐怖だ。もし意思の疎通ができなくなったら人生を終わらせたい。これまで一生懸命生きてきたが、栄光ある撤退と考えたい」として「呼吸器を外して自然に任せてほしい」と病院に要望書を提出した。家族もこの意思を理解し、賛成した。

照川さんの要望書は,ほかの患者さんや家族にも大きな波紋をもたらした.賛成の声が上がる一方,命を自ら終りにすることは到底,認められない、治る日が来るかもしれないのに死んでしまったら終わり、とする意見や,呼吸器をはずすことが公に認められると,患者自身の本意ではなくてもはずすことが強いられるケースも出てくるのでないかという意見もあった。

下畑享良さん(岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野)のブログを参考にしました。

指導案はPDFをご覧ください。ダウンロードできます。
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