中学校 道徳教科書
東京書籍 新しい道徳
「橋の上のおおかみ」
内容項目 | 主として人との関わりに関すること |
---|---|
思いやり、感謝 |
1 本教材について
教材名 「橋の上のおおかみ」 (東京書籍 中学校1年 p.180
「思いやり」「感謝」) ▼本教材は、中学校の教科書に「付録」として掲載されている。「小学校の道徳の時間に学習したことを思い出そう」と表題の下に書かれている。
▼中学校の教科書には奈街三郎さんの原作に近い形で掲載されているが、小学校の教科書には原作をかなり省略したものが掲載されている(参考資料1)。小学校の場合、内容項目は「親切」である。中学校版は、「思いやり」「感謝」だが、森の中で「強い者」と「弱い者」が共に暮らしていくということから考えると「社会的正義」「公平」「公正」と、おおかみが自己満足に陥って自分の気持ちを顧みようともしないことからは「自由」「責任」などとも関連すると思われるが、「親切」「思いやり」「感謝」という価値項目を手がかりに自由に考えてみたい。
▼小学校版も中学校版も、「弱い者」に意地悪で、「強い者」にはこびへつらうオオカミが「強くて優しい熊」に出会ったことによって「人に親切にするとどういう気持ちになるか」「よい気持ちになる」という体験をして変わっていくという話になっている。
▼小学校版は、原作から何個所かをカットすることで、最後の問である「ひとにしんせつにすると、どんなきもちになりますか」への答えに誘導しやすくなっている。
▼しかし、「おおかみ」の気持ちばかりを問題にしていて、「うさぎ」などほかの動物の気持ちについてはほとんど触れていない。
▼また、おおかみのきもちは「親切にすると気持ちよい」と簡単に書かれているが、ほかの可能性はないのだろうか。いじわるをしたら楽しかったということはないのだろうか。世の中には「いじわる」があふれており、見ていて、意地悪を楽しんでいるのではないかと感じる人もいる。
▼中学校版では、おおかみがクマの真似をするようになってからウサギたちは安心したり、喜んだりした、おおかみが「やさしく」「親切」になったおかげで森が平和になったと書かれているのだが、ウサギなどの立場に立って考えてみたい。
▼最後に、この話が現実生活の上でどのようなケースに当てはまるかということを考えたい。寓話を現実の文脈の中で捉えなおしてみるということである。人とのかかわりについてすでに多くの経験をした中学生が何をどのように考えるのか、注目したい。(参考資料3)
教材名 「橋の上のおおかみ」 (東京書籍 中学校1年 p.180
「思いやり」「感謝」) ▼本教材は、中学校の教科書に「付録」として掲載されている。「小学校の道徳の時間に学習したことを思い出そう」と表題の下に書かれている。
▼中学校の教科書には奈街三郎さんの原作に近い形で掲載されているが、小学校の教科書には原作をかなり省略したものが掲載されている(参考資料1)。小学校の場合、内容項目は「親切」である。中学校版は、「思いやり」「感謝」だが、森の中で「強い者」と「弱い者」が共に暮らしていくということから考えると「社会的正義」「公平」「公正」と、おおかみが自己満足に陥って自分の気持ちを顧みようともしないことからは「自由」「責任」などとも関連すると思われるが、「親切」「思いやり」「感謝」という価値項目を手がかりに自由に考えてみたい。
▼小学校版も中学校版も、「弱い者」に意地悪で、「強い者」にはこびへつらうオオカミが「強くて優しい熊」に出会ったことによって「人に親切にするとどういう気持ちになるか」「よい気持ちになる」という体験をして変わっていくという話になっている。
▼小学校版は、原作から何個所かをカットすることで、最後の問である「ひとにしんせつにすると、どんなきもちになりますか」への答えに誘導しやすくなっている。
▼しかし、「おおかみ」の気持ちばかりを問題にしていて、「うさぎ」などほかの動物の気持ちについてはほとんど触れていない。
▼また、おおかみのきもちは「親切にすると気持ちよい」と簡単に書かれているが、ほかの可能性はないのだろうか。いじわるをしたら楽しかったということはないのだろうか。世の中には「いじわる」があふれており、見ていて、意地悪を楽しんでいるのではないかと感じる人もいる。
▼中学校版では、おおかみがクマの真似をするようになってからウサギたちは安心したり、喜んだりした、おおかみが「やさしく」「親切」になったおかげで森が平和になったと書かれているのだが、ウサギなどの立場に立って考えてみたい。
▼最後に、この話が現実生活の上でどのようなケースに当てはまるかということを考えたい。寓話を現実の文脈の中で捉えなおしてみるということである。人とのかかわりについてすでに多くの経験をした中学生が何をどのように考えるのか、注目したい。(参考資料3)
2 本教材を扱う際に、特に注意すべきこと
▼生徒たちには、自分の経験を思い出しながらウサギなど、最初、おおかみにいじわるをされた動物たちとおおかみとの関係性を考えていくことが求められる。
参考資料
参考資料1 「橋の上のおおかみ」(東書 小学校1年生) 一ぽんばしがありました。うさぎがわたっていくと、むこうからおおかみがわたってきました。「こらこら、もどれ、もどれ。おれがさきにわたるんだ。」おおかみがこわいかおで、どなりました。うさぎはびっくりして、すごすごとあとへもどっていきました。「えへん、えへん。」おおかみは、このいじわるがとてもおもしろくなりました。それからは、きつねがきても「こらこら、もどれ、もどれ。」たぬきがきても、「こらこら、もどれ、もどれ。」とおいかえしてしまいました。あるひ、おおきなくまが、はしをわたってきました。おおかみはあわてていいました。「わたしがもどります。」くまはてをふっていいました。「ほら、こうすればいいのさ。」くまはおおかみをだきあげると、うしろにそっとおろしてやりました。おおかみはくまのうしろすがたをいつまでもみおくっていました。(光村1年は、この箇所を「おおかみはふしぎなきもちになってくまのうしろすがたをいつまでもみおくっていました」としている。)つぎのひ、おおかみは、はしのうえでうさぎにあいました。うさぎはあわててもどろうとします。おおかみはやさしくよびとめました。おおかみはうさぎをだきあげ、うしろにそっとおろしてやりました。おおかみはなぜかまえよりずっといいきもちでした。内容項目は「しんせつ」 「ひとにしんせつにするとどんなきもちになりますか」という問いかけがある。光村の場合、教材の終わりにある「かんがえよう」という欄に次の問いかけがある。 ★あいてにしんせつにすると、どんなきもちになるでしょう。
〇おおかみはどうしてふしぎなきもちになったのでしょう。
〇くまにであって、おおかみのきもちはどうかわったでしょう。はじめの「えへん、へん」と、あとの「えへん、へん」のきもちをくらべてみましょう。
〇 おおかみはこのあとどんなふうにかわったとおもいますか。
参考資料2
▼本ホームページには、小学校版「はしの上のおおかみ」の指導案がアップされている。各社は適当に内容を変えているので、すべての教科書に対応する指導案ではないが、参考にされたい。
▼特に「本教材を扱う際に特に注意すべきだと考えたこと」の以下の指摘は、そのまま中学校でも生きるのではないかと思われる。「『しんせつはきもちいい』という価値のみの押しつけにならないように考えていきたい。例えば、相手によって態度を変えたおおかみの行動に注目して議論したり、橋が一本しかないことで起こる不便さについて、1から解決していく方法(橋を広くするとか、わたる規則をつくるなど)をみんなで考えたりするのもよい。また、その後のおおかみと仲良くしていくためにはどうすればよいか、これから、おおかみやウサギがどのように行動していくかなどを考えてもよい。」
参考資料3
ウサギとおおかみのような、「力の強いもの」と「弱いもの」という関係が身の周りにないだろうか。例えば次のようなケースである。
①介護される人とする人、あるいはけがをして思うように動けない同級生とその世話をする友人たち
②席を譲る若者と高齢者、あるいは譲られて怒る高齢者
③いじめっ子から急に親切にされた、いじめられっ子
④人間関係が、力の強い、弱いによって左右されている例
参考資料1 「橋の上のおおかみ」(東書 小学校1年生) 一ぽんばしがありました。うさぎがわたっていくと、むこうからおおかみがわたってきました。「こらこら、もどれ、もどれ。おれがさきにわたるんだ。」おおかみがこわいかおで、どなりました。うさぎはびっくりして、すごすごとあとへもどっていきました。「えへん、えへん。」おおかみは、このいじわるがとてもおもしろくなりました。それからは、きつねがきても「こらこら、もどれ、もどれ。」たぬきがきても、「こらこら、もどれ、もどれ。」とおいかえしてしまいました。あるひ、おおきなくまが、はしをわたってきました。おおかみはあわてていいました。「わたしがもどります。」くまはてをふっていいました。「ほら、こうすればいいのさ。」くまはおおかみをだきあげると、うしろにそっとおろしてやりました。おおかみはくまのうしろすがたをいつまでもみおくっていました。(光村1年は、この箇所を「おおかみはふしぎなきもちになってくまのうしろすがたをいつまでもみおくっていました」としている。)つぎのひ、おおかみは、はしのうえでうさぎにあいました。うさぎはあわててもどろうとします。おおかみはやさしくよびとめました。おおかみはうさぎをだきあげ、うしろにそっとおろしてやりました。おおかみはなぜかまえよりずっといいきもちでした。内容項目は「しんせつ」 「ひとにしんせつにするとどんなきもちになりますか」という問いかけがある。光村の場合、教材の終わりにある「かんがえよう」という欄に次の問いかけがある。 ★あいてにしんせつにすると、どんなきもちになるでしょう。
〇おおかみはどうしてふしぎなきもちになったのでしょう。
〇くまにであって、おおかみのきもちはどうかわったでしょう。はじめの「えへん、へん」と、あとの「えへん、へん」のきもちをくらべてみましょう。
〇 おおかみはこのあとどんなふうにかわったとおもいますか。
参考資料2
▼本ホームページには、小学校版「はしの上のおおかみ」の指導案がアップされている。各社は適当に内容を変えているので、すべての教科書に対応する指導案ではないが、参考にされたい。
▼特に「本教材を扱う際に特に注意すべきだと考えたこと」の以下の指摘は、そのまま中学校でも生きるのではないかと思われる。「『しんせつはきもちいい』という価値のみの押しつけにならないように考えていきたい。例えば、相手によって態度を変えたおおかみの行動に注目して議論したり、橋が一本しかないことで起こる不便さについて、1から解決していく方法(橋を広くするとか、わたる規則をつくるなど)をみんなで考えたりするのもよい。また、その後のおおかみと仲良くしていくためにはどうすればよいか、これから、おおかみやウサギがどのように行動していくかなどを考えてもよい。」
参考資料3
ウサギとおおかみのような、「力の強いもの」と「弱いもの」という関係が身の周りにないだろうか。例えば次のようなケースである。
①介護される人とする人、あるいはけがをして思うように動けない同級生とその世話をする友人たち
②席を譲る若者と高齢者、あるいは譲られて怒る高齢者
③いじめっ子から急に親切にされた、いじめられっ子
④人間関係が、力の強い、弱いによって左右されている例
指導案はPDFをご覧ください。ダウンロードできます。