中学校 道徳教科書
「捨てられた悲しみ」
内容項目 | 主として生命や自然、崇高なものとの関わりに関すること |
---|---|
生命の尊さ |
光村1 年 p 102 「生命の尊さ」
▼ 本教材 のテーマ は、 少なくない人々 の生活にとって、なくてはならない存在になっているペット の「死」 についてである。
▼ 1 年 生の教科書には「 死」について考える教材が他に三つある。「エルマおばあさんからの『最後の贈り物』 」は 、 病気で 余命があまりないということがわかったエルマおばあさんの「死」の迎え方を 、「 さよならの学校」では 「死んでいくものを見送った孫の立場」を、「ひまわり」では災害によって身近で大切 な人が突然亡くなり、その死に向き合わなければならなくなった人を テーマにしている。 いずれも「死 に向き合い」、「死について考える 」 ための教材 と捉えることができる。 いずれにせよ、「死」を考えることは「生」を考えることだ、ということを踏まえたい。
▼ 2,3 年生にも「尊厳死」や「臓器移植」について考える教材があるので 3 年間で計画的に 「死に向き合い 」、「死について考える」 教育 をすることを考えると良いのではないだろうか。 その点、本教材は死について扱う「入門編」として取扱 やすいのではないかと思われる。 ペットについて扱った漫画もあり材料に 事欠かない。(参考資料参照)
▼教科書で の記述は、ペットが捨てられ、何万頭も 殺処分され てい ること、その数を少しでも減らそうという活動をしている人がいること、県などの保護センターでは 引き取りも行う ことができる ようになり、新しい飼い主を見つけようとする努力が行われていること、地 域で「動物とのふれあい方教室」などの試みが始まっていることなど 書かれているが、 子どもたちが自分たちで最新の状況を調べて、考えていくことを促したい。
▼ペットが老衰のため動けなくなったり、病気で寝たきりになった時 は医師の手によって安楽死させるという選択肢もあるが、 医師は断ることも 多いという。 飼い主の中にはあえて安楽死させず、看 取る人もいる。家族の中で意見が分かれることもある。
▼ 動物につい ては、 ペット以外にも野生動物、 家畜 、動物実験など についてなどさまざまな問題がある。動物の権利などとい う考え方も生まれているので、整理しながら考えていく必要がある。
▼ 本文末尾の「学びのテーマ」の中に「人はどうしてペットを飼うのだろう」「動物保護や『殺処分ゼロ』」の実現を目ざ す活動について、調べてみよう」「「身近な動植物の命の尊さについて 考えてみよう」という問いかけがあるので指導過程の中で活かしたい。
▼授業者が結論を持って授業に臨むのではなく、子ど もとともに考えていく 授業にしたい。
▼子どもたちにとって、比較的、関心のあるテーマなので、意見が出やすいと思われる。子どもの意見を尊重しながらともに考えていくことが必要である。
資料1 動物の「死」を扱っている漫画
▼「IWAMAL/岩丸動物診療譚」玉井雪夫 ビッグコミック
ス 1997年
考えさせる漫画作品が多く含まれているが、特に診療譚9「最期のペット」がおすすめ。死期が迫っている犬が岩丸のところへ母子の手によって持ち込まれる。ところがこの犬は死期が迫っているにもかかわらず妊娠していた。母親は犬の年齢もわからないような人だが、「子どもの前で死などという刺激の強いことは言わないで欲しい」「実際の処理は任せる」などと言って岩丸を怒らせる。
▼荒川弘「銀の匙」小学館 2011年
北海道の農業高校に入学した八軒君はほとんど唯一の「街場の子」。初体験で戸惑うことばかり。かわいい子豚に名前をつけようとして「その子に名前つけちゃだめ」「ペットじゃないんだから」と言われて「豚丼」と名付けるが、わずか3ヶ月でベーコンになると聞かされ、ショックを受ける場面がある。「街場の子」がいれば八軒君の悪戦苦闘を見て、考えることが多いのではないだろうか。ちなみに酪農科のある農業高校では動物の出産、生育、屠畜は一連のことである。
資料2 青森の農業高校の実践から
殺処分された犬や猫の骨は廃棄物として処理されることが多い。このことに関心を持ち、廃棄物として処理されることにやりきれない思いを感じた青森の農業高校の生徒たちが、骨を砕いて肥料にし、花を育てる試みをしている。彼らは育てた花を“命の花”と呼んでいる。こうした高校生の取り組みを紹介しながらペットの命について生徒とともに考えることもできる。(毎日新聞2015年2月22日、ハフポストにも記事が掲載されている)
神奈川県には動物愛護センターの中に焼却し、埋葬する場所がある。また、お寺の中にも埋葬し、慰霊する場所を設けているところがある。
資料3「ペットの死」について考えることのできる映画
「豚のいた教室」
小学生がグランドの片隅で、食べるために豚を飼う。小さかったブタが手に余るほど大きくなった時、小学生は卒業していくことになり、ブタをどうするかが大問題となった。Pちゃんと名づけられたブタを食べるのか。長いながい子どもたちの討論が始まる。大阪の小学校の実践を元にした映画。
資料4 子どもたちとWEBなどで調べるときの参考
▼殺処分などについてのデータ
環境省のデータ:https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/dog-cat.html
▼NPOの活動について
Peace Wanko Japan というNPOのホームページ https://peace-wanko.jp/action_policy.html
PeaceというNPOのホームページ https://animals-peace.net/law/saitama_poster.html
他にもいろいろあります。
▼神奈川県の「飼い主のいない猫対策 ガイドライン」
http://www.pref.kanagawa.jp/docs/y5c/kankyoeisei/documents/914001.pdf
神奈川県では、殺処分ゼロを継続しているが、行政、ボランティア、獣医師の負担が重い。そのため、特に全国的に殺処分の多い猫について行政が引き取らなければならない数を減らす必要があるという認識から「飼い主のいない猫対策ガイドライン」を作成して周知している。なお、神奈川県のホームページから愛護センターにもアクセスできる。
▼動物 愛護管理施策に関する 検討会報告書(神奈川県)平成30年
殺処分ゼロの取り組みを早くからすすめてきた神奈川県が現在どのような問題にぶつかっているかを理解することができる資料
▼各地の保健所にアクセスすると収容している動物の公示をしている場合がある。
資料5 神奈川動物保護センターの取り組み
神奈川県の動物保護センター では、 犬 は6年間、猫は5年間 の殺処分ゼロ を継続している。殺処分をしていた時代からさまざまな試みをして、現在は殺処分ゼロを継続している。
その試みを紹介する。
・早くから、不妊去勢手術と基本的なしつけを済ませて譲渡会を実施していること
・子犬の里親デーを実施している。後日、里親を対象に「愛犬教室」を開き、さまざまな知識のレクチャーを行っている
・譲渡に際しては終生飼養できる人に限って譲渡している
・譲渡に際しては管轄外の人に譲渡しない。譲渡後も適正な飼育が行われているかどうか監視、指導するため。
・「ふれあい動物広場」の開園。引き取った子犬を中心に小動物と触れあうことができる広場である。
・小学校高学年を対象とした「夏休み小動物飼育体験教室」の開催。
・県民を対象とした「動物愛護の集い」の開催。
・「しつけ教室」や訓練犬のデモンストレーションの実施。
・「コンパニオンアニマル活動」(特別養護老人ホーム等への訪問)の実施。